第5.5章

  ―私と夏梛ちゃん、二人のデビュー作になるゲームの収録も無事に終えて。
 はじめてのお仕事を終えられた達成感や安心感とともに、今までたくさんしてきた、あの子との練習をもうしなくってもよくなっちゃった、って思うとさみしさもあります。
 でも…私と夏梛ちゃん、何とアイドルユニットを組んじゃいましたから、一緒にお仕事をする機会はなくならなくってとっても嬉しいです。
「あっ、麻美ったらもうきてたんですか…おはようございます」
「うん、夏梛ちゃん、おはようございます」
 今日も私たち、一緒に事務所へ行くために近所の公園で待ち合わせ。
 会いたい気持ちが抑え切れなくっていちも私が少しはやくきちゃうんですけど、とにかく二人並んで事務所へ向かいます。
「今日は久しぶりに晴れましたね」
「ですです、少し暑い暑いくらいです」
 まだ梅雨は明けていなくって、ですので昨日まで雨の日続きでした。
「あっ、じゃあ夏梛ちゃんも私の日傘に入ってください」
 今日から七月、晴れると夏の日差しになっちゃいますから私は白い日傘を差しています。
「え、えとえと、大丈夫大丈夫です、このくらい」
「そう…? 夏梛ちゃんが、そう言うなら…」
 相合傘になったかもしれないのに、残念…雨の日ももちろん彼女も傘を持ってきていますから、そういう機会ってないのに…。
「それにしても、日傘を差した麻美って画になります…さすがさすが、お嬢さまです」
「えっ、夏梛ちゃんったら何言ってるの? それを言ったら、夏梛ちゃんのほうがずっと似合いそうだけど…」
 何しろ、夏梛ちゃんは今日もいつも通りのゴシック・ロリータなおよーふくを着ていますから…白い日傘はちょっと違うと思いますけど、黒い日傘とかを差していたら画になりそうです。

 事務所のあるビルにやってきた私たちですけど、その入口……入ってすぐに見慣れた人影を目に留めました。
「あっ、おはようございます、睦月さん」「その、おはようございます」
「あら、まぁ、お二人ともおはようございます〜。今日も仲良しですね〜」
 笑顔で私たちを迎えてくれたのは、私たちのマネージャをしている如月睦月さん…なんですけど。
「あのあの、睦月さん、何を何をしているんです?」
 夏梛ちゃんが声をかけた通り、如月さんは入口の片隅に何かを立てかけていて…笹?
「あら、もうすぐ七夕ですから、ここに短冊をつける笹を用意していたんですよ〜」
 よく見ると大きめの笹のそばには短冊の置かれた机もありました。
「事務所の皆さんに願い事を書いてもらおうと思って〜。七夕の日にあの神社に持っていきますから、お二人とも自由に願い事を書いて飾っておいてくださいね〜」
 如月さんはそう言うと奥に行ってしまいました。
「夏梛ちゃん、どうしよう?」
「まだ時間はありますし、さっそく書いて書いてみます?」
「うん、そうですね」
 ということでお互いに一つずつ短冊を手にしますけれど、何て書きましょうか。
 少し考えてみても、思い浮かぶのは一つのことだけ…でも、さすがにそれをはっきり書くだけの勇気はありません。
 ですから…「夏梛ちゃんと一緒にたくさんお仕事ができますように」って書いてみました。
「うん…これでいいですよね」
 これなら、自然と彼女と一緒にいられる時間が多くなります。
 その夏梛ちゃんも書き終えたみたい。
「夏梛ちゃんは何て書いたの?」
「えとえと、な、内緒内緒です! 見ないで見ないでくださいねっ?」
 少し赤くなったりしながらそんなお返事されて…とってもかわいいです。
「もう、しょうがないですね…じゃあ、私のものも見ないでくださいね?」
「むぅ〜、しょうがないです」
 よく考えると私の短冊も彼女に見られると少し恥ずかしいですし、彼女が何て書いたのかとっても気になりますけれど仕方ないですよね。

 短冊を笹につけてから改めて如月さんのところへ行ったんですけど、そこで今後のお仕事の予定を聞かされて…アイドルのお仕事など、夏梛ちゃんと一緒にするものがたくさんありました。
 まだ七夕じゃないのにもう願い事が叶っちゃいました…けど、その先もそうなる様に頑張らないと、ですね。
 そして、できることならお仕事以外でも…ううん、確かにそれは私が心の奥底に持っている願い事ですけど、さすがに…。


    -fin-

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