私が夏梛ちゃんへ抱いている想い…それを、喫茶店の店員さんに聞いてもらいます。
 もちろん、夏梛ちゃんっていうお名前とか、私たちが声優をしていることなどは伏せておきます…いずれは話すこともあるかもしれませんけれど、今はまだお会いしたばかりですから。
 お話ししましたのは、一緒にお仕事をするとってもかわいい女の子のことを私が好きになってしまったこと、それに対して私は彼女のそばにいられるだけで十分です、と思っていることなど…。
「…そう。聞かせてくださって、ありがとう」
 一通り話し終えて一息つきますと、席の向かい側に座っている店員さんがそう言って微笑んできます。
 テーブルの上には私と店員さんの分な紅茶があって、私たちはお茶をいただきながらお話しをしていました…お仕事中なのに大丈夫なのでしょうか、とも思いましたけれど、今までのところ他にお客さんなど誰かくる気配はありません。
 私が一人でこのお店へやってきたことを店員さんは先ほど必然の様に言っていらした気もしますし、色々と不思議…まるで夢の中みたいにも感じられますけれど、それならばそれでもいいのかも、と感じます。
「こちらこそありがとうございました。お茶もとってもおいしかったですし、それに…話を聞いていただいて、少し気持ちが軽くなりました」
「ふふっ、それはよかったわ。紅茶は、今日はサービスにしてあげるわね」
 いつの間にか緊張がすっかり解けていたのは、このお茶のおかげというところもあったかと思います…今まで口にした紅茶の中でも一番といえるほどおいしかったですから。
 それに、胸に秘めたことを誰かに聞いていただくのって、確かに悪い感じじゃなくって…。
「また何かあったら、遠慮なくお店へきて私に話してみてね。私でよければ、いくらでも力になるわ」
「は、はい、その、そのときはよろしくお願いします」
 ですから、店員さんの言葉に私はうなずき返したのでした。

「では、ありがとうございました。今日はお会計はいいわよ」
 そろそろ帰ることにして…店員さんはカウンタへ戻ってそう言ってきます。
「は、はい、それでは…」
「…あっ、少し待って。お名前、よろしければ聞かせていただける?」
 扉を開けようとする私にそう声がかけられました。
「あっ、は、はい、石川麻美といいます…」
「麻美ちゃんね…あ、私は見ての通りここの店員の藤枝美亜。よろしくね」
 えっ、「藤枝」って…そこまであの後輩さんと同じだなんて、こんな偶然があるのですね。
「ね、麻美ちゃん、本当に好きな子へ想いは伝えないのかしら。伝えたほうがいいと、私は思うのだけれども」
 少し驚いてしまいましたけれど、その直後にもっと心を乱されることを言われてしまってあたふたしてしまいます。
「えっ、い、いえ、それは…! さっきも言いましたけれど、私は夏梛ちゃ…あの子と一緒にいられるだけで十分ですし、彼女は私なんかのことをそんな風には見ていないでしょうし、そもそも女の子の私が告白などをしても何と思われるか…」
 そうです、想いを伝えたりしては今の幸せな関係が壊れるだけになってしまいそうですし、今以上のことを望むなんて…。
「そうかしら…う〜ん、そのあたりのことは、また次に麻美ちゃんがきてくれたときにお話ししましょうか」
「は、はい…」
 想いを伝える、なんてことはこの先もないとは思いますけれど、またこのお店へきて藤枝さんに話を聞いてもらいたいという気持ちはありますから、まだ少しあたふたとしながらもうなずいたのでした。


    -fin-

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