「あら、いらっしゃいませ」
 お店の中へ入りますと、穏やかで品のある女の人に迎えられました。
「あっ、は、はい、その、失礼します…」
 ゆっくりと扉を閉じますけれど…うぅ、やっぱり緊張します。
「お客さまなんだから、そんなかしこまらなくってもいいのに…あら、はじめての子ね」
「あっ、は、はい…その、ダメでしたでしょうか…」
「ふふっ、何もダメなことはないし、大歓迎よ。さ、お好きな席へどうぞ」
「あ、ありがとうございます…」
 促されるままに、お店の端のほうの席へ座らせてもらいます。
 やっぱりとっても緊張してしまいながらもお店の中の様子を見てみますけれど、内装も落ち着いていてよい雰囲気です。
「はい、お水をどうぞ」
「あ、ありがとうございます…」
 お店には店員さん一人しかいらっしゃらなくって、他に人の姿は見られません。
 ひとまず出されたお水を一口飲んで落ち着きましょう…と、店員さんが私のことをじぃ〜っと見つめてきています?
 その人は身長は私より少し低いくらいで年齢もそう変わらない気はしますながら何だか大人な雰囲気を感じる、きれいな髪を縦ロールなツインテにした女の人なんですけど、どうしたのでしょう…?
 もしかして、もう何か注文を言わないといけないとか、そういうことなのでしょうか…。
「あ、あの、えっと、注文はまだ決まっていなくって…」
「…貴女、恋をしているわね?」
 震えそうになりながらも何とか声を出す私…ですけれど、その人から返ってきた言葉は…?
「…えっ? あ、あの、今、何て…?」
 ちょっと聞き間違いとしか思えない気がしましたし、戸惑ってしまいます。
「ええ、貴女って恋をしているわよね、って」
 今度もはっきりとそう聞こえましたし、これって聞き間違いではなさそう、です…?
「あ、あの、どうしてそんな…」
 でも、そうだとしてもそんなことを言われる理由が解らなくって、ますます戸惑ってしまいます。
「うふふっ…しかも貴女、女の子に恋しているわね。それに、想いを伝えることはできずにいるのでしょう?」
「えっ、そ、そのっ、ど、どうしてそんなことまで解るんですっ…?」
「あら…ふふっ、やっぱり」
 その人は穏やかに微笑みますけれど、これって…私って、初対面の人にそこまで知られちゃうほど解りやすいのでしょうか。
「ごめんなさい、突然で戸惑わせてしまったわね。私にはそういうことが自然と解っちゃうものだから、つい」
「えっと、それって…やっぱり私が解りやすいから、ということですか?」
「いいえ、そうじゃないわ。何ていうのかしら、私は女の子同士の…そう、百合な恋をしている子は見れば解っちゃうの」
 その人は疑問に思う私へ穏やかに対応してくださいましたながら、それはそれでとんでもないこと…ではありますけれど。
「そう…なのですか」
「あら、あまり驚かないのね。はじめての子はみんな驚くのに…もしかして、冗談と思っているのかしら」
「いえ、そういうわけでは…もちろん信じますし、すごいこととも感じています」
 本当、本来でしたらこの人の言うとおりもっと驚いたりすると思いますけれど、私の場合…これまでにお一人、そういう力、と表現していいのか解りませんけれど、とにかくそういうことの解る人にお会いしたことがありましたから。
 ですから、この店員さんが百合な恋をしている人を見れば解る、ということ…不思議なことなのは確かながら、素直に受け入れられます。
「あの、けれど…どうしてそんなことが、人を見るだけで解るんですか?」
「そうね、それは…何となく、かしら」
「そ、そうですか…」
 そのあたりが完全に本人の感覚だけなところも、あの後輩さんと同じみたいです。
 本当に不思議ですけれど、こういう人があの後輩さんの他にもいたのですね…。
「それで、実際のところはどうなのかしら?」
「えっと…どう、って…?」
「決まっているわ、さっき私が言ったこと…貴女が百合な恋をしていて、それに想いを伝えられていない、ということよ。そうなのかしら?」
 うっ、ものすごく興味津々、といった目を向けられちゃいました。
「は、はい、間違ってはいないと思います…」
「そう…ね、もしよかったら、そのあたりのこと、詳しく聞かせていただけないかしら?」
「えっと、ど、どうして聞きたいんですか…? やっぱり、百合なお話が好きだから…?」
「あら、よく解ったわね。でも、少し違うかしら…お話に限らず、百合な子たちを見たりするのも大好きで、とっても幸せになってくるもの」
 そうして微笑む姿はとっても大人っぽくってあの後輩さんとは逆の印象を受けますけれど、でも言っていることはやっぱり同じです。
「そして、百合な子たちに幸せになってもらいたくて、私が話を聞いて相談に乗ってあげたりしているの。その子たちが幸せになってくれると、私も嬉しいもの」
 と、そのあたりはさすがに後輩さんとは少し違いました…あの子の場合は物語を書いてあげる、でしたから。
「だから、貴女の力にもなってあげたいの。一人でこのお店へやってきたということは、何かそういう悩みごとを抱えていそうな気がするし…どうかしら。話すだけでも、気持ちが楽になったりするかもしれないわ」
 穏やかな声でそう言われて、少し考えます。
 私のこの想いについて、今まで誰かに話したことなんてありません…いえ、話そうとなんて思ったこともありませんでした。
 それを初対面の人に話す、なんてちょっと考えづらいところではありましたけれど、でもこの店員さんにでしたらいいのかも、とも感じます。
 誰かに聞いていただければ確かに気持ちも楽になるかもしれませんし、それに店員さんはああ公言していらっしゃるのですから、女の子同士という関係についてもおかしな目を向けたりしないでしょうから。
「はい…では、その、よろしければ、よろしくお願いします」
 ですから、私は少し緊張しながらも小さくうなずいたのでした。


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