そんなことを話したりしながら、でもいい練習場所は出てこないうちに、私たちは浜辺にまでやってきていました。
「あっ、灯月さん、ここなんてどうですか?」
 私たち以外に人の姿もない、波の音と少し遠くから車の音が耳に届く砂浜を見てそうたずねます。
「悪くは悪くはないかもですけど…ただただ、今誰もいないだけで、ここってお散歩の人とか結構結構きますからね…」
「あぅ、そっか…」
 他の人に見られちゃうなんて集中できませんし、それにそんなことしているとお散歩の邪魔になっちゃいますよね…。
「まぁまぁ、一つの案ということにしておいて…せっかくせっかくここまできたんですから、神社にも寄ってみましょう」
 灯月さんのその言葉にうなずいて、砂浜の近くにある神社へ行きます。
「あぅあぅ、今日は屋台、いませんか…」
 境内に白たい焼きの屋台がないのを見て灯月さんはしゅんとしてしまいましたけれど、そんな彼女もかわいらしいです。
 そんな灯月さんに少しどきどきしながらもお参り…また灯月さんのことを願っちゃいました。
「ここってとっても静かですよね…落ち着きます」
「ですです、まわりは結構結構深い森になってるみたいですから」
 ここで練習…とも少し思いましたけれど、屋台が出ていることもあるほどの場所ですしやっぱり少なからず人がきますから難しいですよね。
 まずは砂浜同様に案の一つ、といったところでしょうか…どこも見つからなかったらどうしようもありませんから。
「そういえばそういえば、麻美はこの町にきたばっかりの頃にここで私のこと見たんですよね?」
 お参りも終えて、ゆっくり参道を歩きながら灯月さんがそうたずねてきました。
「あっ、うん、そうですけど…それがどうしたの?」
「はい、木陰に木陰にいた、ってことですけど、そんなそんなところで何してたんです?」
「うん、あのときはちょっと森の中に入って、そこでお弁当を食べて…」
 静かで落ち着く場所でしたから、お昼寝もしたんでしたっけ…なんてあの日のことを思い返しますけれど、そのときあることがひらめきました。
「…あっ、そうです。灯月さん、ちょっといい?」
 私はそう声をかけて、神社のまわりを包んでいる森の中へ足を踏み入れます。
「え…ちょっとちょっと、麻美ったらどこにどこに行くんです?」
「うん、ちょっと…」
 灯月さんも戸惑いながらもついてきてくれますけど、この森…確かになかなか広くって、結構足を踏み入れましたのに果てが見えません。
 何だか、あの学園を思い出しますかも…。
「…もうもうっ、麻美ったらどこまでどこまで行くんですっ?」
「あっ、ごめんね、灯月さん」
 だいぶ奥までやってきちゃいましたし、彼女の声に足を止めます。
「えとえと、麻美…? こんなこんなとこに私を連れ込んだりして、何を何をするつもりです…?」
「うん、灯月さん…私、いいこと思いついたの」
「い、いいこと…って、何です何です?」
 あれっ、灯月さんが少し不安げというか、緊張した面持ちに見えます…どうしたんでしょう。
「うん、ここで練習できないかな、って」
「…えっ? 練習、って…あぁ、そういうそういうことでしたか…」
 灯月さん、今度は何だかほっとした様子…本当にどうしたんでしょう。
「そう言われますと…確かに確かに、いい場所かもです」
 彼女の様子も気になりましたけれど普通に戻ったみたいですし、この場所についてです。
 学生時代にも学園の森の中で練習をしようと考えたことがありましたっけ…そのときはスタジオが見つかりましたのでやめておいたのですけれど、今回はここが最良の場所に感じられます。
「森の中にしてはじめじめしてませんし、こんなにこんなに奥でしたら人もこなくて声も外にまでは聞こえないと思いますし、ここでここでいいんじゃないでしょうか」
「わぁ…うん、ありがと、灯月さん」
「えっ、そんなそんな、ここを思いついたのは麻美なんですし、こちらこそありがとうございます」
 お互いにお礼を言い合っちゃったりして、その後微笑みあっちゃいます。
「それじゃ、さっそく練習を…」
「あっ、ちょっとちょっと待ってください」
「えっ、灯月さん、どうしたの?」
「はい、ここってここって一応神社の敷地内ですよね。ですからですからちゃんと許可を取って取っておいたほうがいいかもしれません」
 そう言われますと…今日一日だけでしたらとにかく、これからたくさん使いたいですし、そうしたほうがいいかもしれません。
 それに、もしかすると森でそんなことをしてはいけません、となるかもしれませんよね…。
「うん、そうだね、灯月さん」
 ですから、私も彼女へうなずき返したのでした。


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