「全く全く…石川さん、落ち着きました?」
「う、うん…灯月さん、それに山城さんも、ごめんなさい…」
 何とか泣き止んだ私、隣に座ってくれた灯月さん、それに向かい側に腰掛けました山城さんへ頭を下げます。
「昨日のことは本当に気にしなくってもいいよ? 初日なんだから緊張してたって思うし」
 山城さんのおやさしいお言葉でかえって胸が痛くなりそうに…。
「そうだ、麻美ちゃん、さっき渡したチョコバー食べよっ。そうしたら元気になるから」
「…えっ? えっと…」
 山城さんの言葉に少し戸惑いながらもさっき受け取りましたものへと目をやりますと、どうやらそういうお菓子みたいでした。
「はいっ、夏梛ちゃんにもあげるね。三人で一緒に食べよっ」
「え、えとえと、ありがとうございます…」
 灯月さんも同じものを受け取って、そして山城さんも改めて手にします。
「それじゃ、いただきま〜す…サクサクサク」
 山城さんはそのお菓子をおいしそうに食べはじめるものですから、私と灯月さんも少し戸惑いながらも食べさせていただきます。
「サクサク…おいしいおいしいです」「サク、サク…そ、そうですね」
「うんうん、それはよかった…サクサクサク」
 私たちの反応を見て山城さんは満足げです。
「それで、二人とも今日は何するの?」
「えとえと、私たちはもうすぐもうすぐお仕事の打ち合わせとかあって、それにそれにレッスンもあるみたいです」
「そっか、二人にとってここでのレッスンもはじめてになるよね…頑張ってね」
「ありがとうございます」「は、はい…」
 ここでのどころか、私にとって誰かにレッスンを受けるということ自体がはじめてになりますから…うぅ、緊張してきちゃいます。
「そんな緊張することじゃないって。気楽にいこうよ、ね?」
 そんな私の様子に気づいてか、山城さんがそう声をかけてくださいました。
「それに、何かあったら遠慮なく私を頼ってくれていいよ。私が二人のすぐ上のセンパイになるし、ねっ」
「えとえと、ありがとうございます」
「うんうんっ」
 笑顔でうなずき返してくる山城さん、とってもいい人ですよね…と、その彼女、直後に何かに気づいた様な表情になります?
「あ、でも二人のすぐ上のセンパイ、ってなると私じゃないのか」
「えとえと、そうなんです?」
「うん、二人のちょっと前に片桐里緒菜ちゃんって子が入ってきてるから、すぐ上ってなるとその子になりそう」
「なるほどなるほどです」
「あ、でもその子はまだ高校生だから、年齢は二人のほうが上だね。それに、ほんの少しはやいってだけだから、その子も新人さんなのは確かだし…そもそも、私もまだ実際に会えたことはないんだけどね」
 そういえば、そういうかたがいらっしゃる、ということは私たちも話だけは聞いておりました…高校生で声優さん、というかたは少なからずいらっしゃいますけれど、それだけの実力のあるかたということですよね。
「いつ会えるのかなぁ…っと、それはともかく、夏梛ちゃんに麻美ちゃん、改めてこれからよろしくねっ」
「はいっ」「よ、よろしくお願いいたします…」


    -fin-

ページ→1/2

物語topへ戻る