「ではでは、今日はこちらでおしまいにしておきましょう」
 そう言って灯月さんが案内してくれたのは、海沿いにある神社でした。
「あっ、ここは私もきたことがあります」
「そうなんです?」
「うん、海が見たいなって思って浜辺に出たら、偶然見つけて」
「そうでしたか…でしたらこなくってもよかったかもですね」
 ゆっくり鳥居をくぐりながらも灯月さんがそんなことを言ってきちゃいます。
「そんなことないよ、灯月さんとくることができて、とっても嬉しいもん」
「そ、そうですか? なら別に別にいいんですけど…」
 うんうん、この間は一人でしたし、全然違います。
「ここの神社は私たちが所属することになった事務所と縁があるんです。夏祭りのときは事務所のアーティストさんがミニライブしたりするんです…去年とか、私も見ました」
「わぁ、そうなんですね…」
 今年は私も見れますよね…生のライブなんて学園祭の出し物以外ではもちろん見たことありませんし、楽しみです。
 そのときは、灯月さんと見られたら…ううん、灯月さんでしたらもしかするともう出演する側になっているかもしれませんけれども。
「…あっ、そういえば、この間ここへきたとき、灯月さんのこと見ました」
 と、ふとあのときのことを思い出しました。
「えっ、そうなんです? でもでも、私は石川さんのこと見てませんけど…」
「うん、私は木陰にいて、それに声をかける前に見失っちゃったから…」
 あのときはあれが本当にオーディションの日に会った子、つまり灯月さんでしたかはっきりとは言えませんでしたけど、今なら間違いないっていえます。
「灯月さん、屋台で白たい焼きを買ってましたよね…好きなんですか?」
「あぅあぅ、そんなそんなところ見てたんですか…好きで好きで悪いんですか?」
「ううん、そんなことないよ。灯月さんの好きなものを知れて、何だか嬉しいです」
 悪いどころか、かわいらしくっていい感じですよね。
「そ、そうですか…? ではでは、今日も屋台が出てましたら、一緒に食べますか?」
「うん…って、あそこにあるのって、そうなんじゃないですか?」
 境内の一角に、まさにその屋台があるのが目に留まります。
「あっ、そうですそうです。ではではさっそく…」
「それもいいけど、その前にお参りしませんか? せっかく神社にきたんだし」
「むぅ〜…そ、そうしましょうか」
 ちょっとだけ不満げになった灯月さんもかわいい。
 そんな彼女と今日一緒にいられて、色々お話しできたからかな…ううん、もっと前から望んでましたでしょうか。
 お参りのお願い事、お仕事のことじゃなくって、灯月さんともっと仲良くできますように、ってお願いしちゃいました。
 今まで他の人とほとんど関わったりしてこなかった私がこんなお願い事しちゃうなんて、贅沢かわがままでしょうか…。
 でも、私、灯月さんに一目お会いしたときからなぜかそう感じてて…この願い、届くといいな。


    -fin-

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