それからすぐにお料理が運ばれてきましたからお食事をして。
 食後はのんびりお茶をしながら灯月さんとお話しをして…人見知りをしがちな私ですけど、灯月さんとは緊張のためかちょっとどきどきはしちゃったものの、普通にお話しできています。
 灯月さんのほうも、私なんかとお話ししてつまらなかったりしないかな、って少し不安でしたけど、普通にお話ししてくださっている様に見えて一安心…彼女はこの町にある実家で暮らしていることなど話してくださいました。
「えとえと、石川さんって午後からは何か予定ってあります?」
 と、お茶も飲み終えてティーカップを静かに置きながら彼女がそうたずねてきます。
「えっ、ううん、特にないけど…どうしたの?」
 事務所での初日が思ったよりはやく終わっちゃいましたし、それ以外に予定なんて入りようがないですものね…。
「はい、よければ町を案内案内してあげようかな、って思ったんですけど…」
「えっ、それって…私を、灯月さんがですか?」
「ですです、他に誰が誰がいるんです…」
「あ…う、うん、そうだよね…」
 突然のお誘いにびっくりしちゃって、おかしな反応しちゃった…。
「でも、そんな…いいの? 灯月さんにご迷惑かかっちゃうんじゃ…」
「別に別に、私も予定ないですし、それに石川さんもこの町で暮らすっていうんでしたら…慣れない町で迷子になったりしちゃダメですし」
 はぅ、私ってそんなに頼りない…ううん、灯月さんは私のことを心配してああ言ってくださっているんだと思いますし、もったいないくらいですよね。
「もちろんもちろん、石川さんがいらないっていうんでしたら、やめてやめておきますけど」
「ううん、そんなことない…灯月さんがいいなら、よろしくお願いしますっ」
 思わず深々と頭を下げちゃいます。
「そ、そこまでそこまで言うんでしたら、しょうがないです」
「うん、灯月さん、ありがとうございます」
 とっても嬉しくって、顔を上げて微笑みかけちゃいます。
「べ、別に別に、そんな大したことじゃ…」
 あ、灯月さん、またちょっとぷいっとしちゃいました。

 よく晴れた午後、灯月さんと一緒に町を歩きます。
 この町を引っ越してきてすぐの頃に一人で歩いてはみましたけど、あれは近所以外は特にあてもなく歩いただけでしたし、今日は灯月さんがお店などを紹介してくださいますからありがたいです。
 それに、灯月さんと一緒に歩いている…これだけで、なぜだかとっても嬉しい気持ちになってきます。
 ただ、しばらく歩いていると、ちょっと気になることも出てきちゃいます。
「やっぱり、灯月さんは他の人たちに注目されますよね…」
「えとえと、石川さんったら突然突然何言ってくるんです?」
 ふとつぶやいた言葉が彼女の耳に入っちゃったみたいです。
「だって、道行く人がこちらを見てきますし…これってやっぱり灯月さんがかわいくってつい、ってことですよね」
 うん、彼女はとっても目を惹く存在ですよね。
「べ、別に別にそんなことないと思うんですけど…この服装が目立ってるだけじゃないですか?」
「うん、灯月さん、その服装とってもよく似合ってますよね。それも含めて、ってことでしょうか」
「含めても何も、それだけだと思いますし、それにそれに私じゃなくって石川さんが注目注目されているんじゃないですか?」
「えっ、私が? ううん、それはあり得ないよ」
「どうしてそんなそんな言い切れるんです…石川さん、とってもとってもきれいなのに」
「わっ…そんな、私なんて全然、そんなことないですっ」
 あまりに予想外の言葉に慌ててしまいます。
「石川さんみたいな美少女さんがそんなそんなこと言っても、厭味にしか聞こえませんけど…」
「そ、そんな、私なんて地味で目立たないし…美少女だなんて、それは灯月さんのことですよね」
 そうです、私の存在感なんて、ついこの間までの学生時代を思い返せばすぐに解っちゃうことです。
「あぅあぅ、私なんてそんなそんな…とにかくとにかく、まわりの人のことなんて気にしなくっていいといいと思います」
「…うん、そうだね、灯月さん」
 学生時代がそんな感じでしたから、まわりの目はやっぱりちょっと気にはなるんですけど、それ以上に慌てる灯月さんがかわいくってうなずいちゃうのでした。


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