浮かない気持ちのまま、靴を履き替えて校舎の外へ出ました。
 お昼休み、半分くらいの子は学食へ行くでしょうか…とてもきれいな場所で、また料理も一流レストランに負けないと評判です。
 でも、私は人ごみが好きじゃないっていうこともあって、お弁当を持参…お料理は嫌いじゃないですから、自分で作ったものです。
 今日は雲ひとつない晴天で、髪を軽くなびくくらいのそよ風が心地よいですし、こういう日は外でお弁当を食べることにしています。
 一緒に食べる人もいませんし、それでしたら一人で静かなところで落ち着いて食べたいですから。
「今日はどこで食べようかな…?」
 幸い、この学校はその広い敷地のほとんどに桜の木が植えられていて、それはもう森みたい…一人で静かにいられる場所には事欠きません。
 そよ風にそよぐ木々の枝の音に導かれるままにたどり着いたのは、森の中に少し開けた場所にありました小さな池です。
 ここは一年生の頃にも何度かきましたけど、校舎や道などから離れた場所にありますから、誰もいなくって喧騒とも無縁ないい場所です。
「では、いただきます」
 池のほとりの芝生に腰かけて、お弁当を広げてのんびりお昼ごはんを食べます。
 学校にいるとは思えないくらい静かで、いつもでしたら落ち着いた気持ちになれるんですけど、今日ばかりはそうもいきません。
「私の進路、か…」
 昨日から悩んでいる、そしてさっき綾瀬先生とも少し話したことをどうしても考えてしまいます。
 一人で悩んでいても答えが全然出ません…かといって、他の人に答えを出してもらうものでもありません。
 紙には結局この学園の大学を書いちゃいましたけど、それって深く考えた結果ではなくって、流されてるだけですよね…私はやっぱり、父の望む様に歩むのが一番なのでしょうか。
「…はぁ」
 お弁当を食べ終えたところで思わずため息が出ちゃいました…と。
「…きゃっ?」
 不意に近くの繁みががさがさと揺れてびくっとしちゃいました。
 まだ揺れ続けていますけど、何…こんな広い森みたいになっているところですし、小動物などがいたりするの…?
「あ、あの、誰かいるのっ?」
 おびえてしまいながら繁みを注目します…と、そこから一つの影が飛び出してきたんです。
「…きゃぁっ!」
「わわわ、こんなところに人がいたよ〜」
 思わず叫び声をあげてしまいましたけれど、返ってきたのは…ずいぶんかわいらしい女の子の声?
「え…あなた、は?」
 その姿を確認して、とっても戸惑ってしまいました。
「うん、みーさは藤枝美紗だよ〜」
 私の前に現れた、そして元気な声で答えるその子はとっても小さな…おそらく身長百四十センチもなさそう。
 あまり長くない髪をツインテールにした、無邪気そうな笑顔を浮かべたかわいらしい女の子でした。
「あ、あの、こんなところで何を…?」
 別に警戒が必要な相手ではなさそうですけれど、それでもまだ少しびくびくしてしまっています…純粋にびっくりした、というのも大きいですけど。
「うん、みーさは色んなところを見て回ってるんだよ〜」
「そ、そうなんだ…」
 見た感じ初等部な年齢の子みたいですし、そういう探検みたいなことが楽しいのでしょうか…微笑ましくなって、緊張の糸がほぐれていきます。
「それで、あなたは…あっ、お弁当を食べてたんだね〜」
「は、はい、今食べ終えたところですけど…」
「…って、あれれ〜? 他に、一緒にお弁当を食べてる子はいないのかな〜?」
「う、うん、私一人だけど、それがどうしたの…?」
 やっぱり、初等部の子には一人でお弁当というのが不自然に感じられたのでしょうか…。
「そうなんだ…みーさの勘違いだったのかな〜?」
「…えっ?」
 首を傾げられましたけど、そうしたいのはこちらです。
「う〜ん、みーさの百合センサが反応した気がしたんだけど…」
 …今、何て言いました?
「あ、あの…」
「お邪魔しちゃったみたいで、ごめんなさいだよ〜」
 思わず問いただそうとしましたけれど、その前にそう言い残してその子は走り去ってしまいました。
「な、何だったの…?」
 嵐の様に現れ、そして去っていったその子のことを、ただ呆然と見送ります。
 それにしても、さっきの言葉は私の聞き間違いだったのでしょうか…。
 確かに「百合センサ」と言っていた気がしたんですけど、百合というと…お花よりもまずあれが思い浮かびます。
「…そんなわけないよね」
 いくら何でも、初等部の子がそんなことを知ってるわけないし、きっと聞き間違いか、別の意味で言っていたんですよね。
 でも、初等部の校舎とこことはずいぶんと距離があるのに、すごいですね…やっぱり小さな子供は元気です。


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