序章

 ―その出会いは、中学生のとき。
 それも、本当にたまたまの、偶然によるものでした。
 あの日、ときどき利用している本屋さんへ行った私…用事を済ませた後、ふとそのお隣にありましたゲームのお店へ入ってみたのです。
 それまで私はゲームを一度もしたことはありませんでしたけれど、その日は少し時間があったこともあって、わずかの興味がわいたこともあって行ってみたのです。
 ぱっと見てみて、私にはとてもできなさそう、難しそうな作品ばかりでしたから、棚に並べられた作品たちを軽く眺めてすぐに立ち去ろうとしました…けれども、そんな私の目にある作品が目に留まりました。
「わぁ…か、かわいい、です…」
 それが目に留まった瞬間、私の足は思わず止まり、さらに胸がどきどきしてきてしまいました。
 目についたのは、きれいな女の子たちのイラストがジャケットに書かれた作品…それを見た私の心には、今まで感じたことのない気持ちが浮かんできていました。

 あれから何日か迷って、けれどその素敵なイラストのことが忘れられなくって、数日後思い切ってついに購入をしてしまいました。
 そのゲームは主人公の男性になって色々な女の子と恋をしていくというもので、俗にいうギャルゲーというものだって後に知りましたけれど、とにかく私が実際にその女の子たちに恋をしている気持ちになってどきどきしてしまいました。
 それからさらにいくつかの似たゲームソフトを買ってみましたけれどやっぱりどきどきしてしまって、いつしかそのゲームたちの一つのアニメーションなDVDソフトまで買っちゃいました。
 それがきっかけとなって他の色々なアニメも観る様になっていって、すっかりそちらの世界が好きになっていました。
「わぁ、この子、かわいい…」
 アニメでもやっぱり女の子に惹かれてしまって、どきどきしたりしちゃいます。
 一応私も女の子なんですけど、男性キャラにはそんな気持ちになりませんし、私は女の子が好きなのかな…でも現実では男女問わず恋なんてしたことなくって、よく解りませんでした。
 誰かに相談でもしてみようかな、と考えたこともありましたけれど、ただでさえ私には友人知人といえる人がほとんどいませんし…。
「麻美、あまりお前の趣味に干渉するつもりはないが、石川家の者として恥ずかしくない様にな。そもそも、そんなことに使う時間があるのなら…」
「は、はい、お父さま…」
 さらに父からそんなことを言われてしまって…アニメやゲームをしていること自体が周囲の人にとってはよくない様に見えるのでしょうか、と感じられてしまって、とてもではありませんけれどそれ以上踏み込んだことなんて口にできないのでした。

 たとえ父に恥ずかしいなんて言われてもやっぱり好きで、誰にも言いはしませんけれども引き続きアニメやゲームの世界に入り込んでいく私…そうしているうちに、いくつか解ってきたことがありました。
「うん、やっぱりこのお二人は素敵です…」
 アニメ中の二人の女の子を見ながらそう呟いてしまいますけれど、私は女の子同士の恋を描いたもの…「百合」と表現されるジャンルの作品が特に好きみたい。
 私自身はやっぱりまだ現実の誰かに恋をしたことはありませんけれど、でもそういう作品を見ていると幸せな気持ちになりますし、はじめてゲームを手にしたときの気持ちなど、やっぱり恋に近いものだったのかなって思います。
 そして、もう一つ…。
「やっぱり、この声優さんは演技が上手です…」
 たくさんの作品と接しているうちに、キャラクターの声を演じている人…声優さんへ対し、興味がわいてきたのです。
 私にとってはあまりに遠い世界の人たち…色々と、憧れてしまうのでした。


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